M. Ward「Hold Time」

アメリカで最も高く評価されるベテラン・シンガーソングライター・ギタリスト、M.ウォード。通算6枚目の新作「ホールド・タイム」は、ゲストにズーイー・デシャネル、グランダディのジェイソン・リトル、ルシンダ・ウィリアムズ、デヴォーチカのトム・ヘイガーマンなどを迎えた傑作!必聴盤!

高く評価された前作『ポスト・ウォー』(06年)でウォードは、多彩なサウンド・アレンジによって起伏に富んだ流れを導き出し、彼の音楽が見せてくれる世界観そのものを広げることに成功した。その後、女優ズーイ・デシャネル(『ハプニング』、『あの頃ペニーレインと』等)とシー&ヒムを結成、60年代のカリフォルニア・ポップスを意識したデビュー作『ヴォリューム・ワン』(08年)は、各方面で好評を博し、ウォードの名前をより広めるのにも一役買った(すでに『ヴォリューム・ツー』の制作も進んでいる)。そして、待望のソロ通算6作目がここに登場する。

まろやかなギターの響きとノスタルジックなフィーリング溢れるヴォーカリゼイションのコンビが印象的な「フォー・ビギナーズ(AKA マウント・ザイオン)」で軽やかに幕を開ける『ホールド・タイム』。ズーイ・デシャネルをフィーチュアした「ネヴァー・ハド・エニバディ・ライク・ユー」は、やさぐれブギー風でありながらキュート。早くも前半のハイライトになるのは、タイトル・トラック「ホールド・タイム」だろう。深い霧に包まれた山あいを思わせる、幻想的かつ幽玄な風景を見せてくれるこの曲は、怖いくらいに美しい。

これまたズーイを迎えた「レイヴ・オン」はバディ・ホリーのカヴァー。過去にもビーチ・ボーイズ、ルイ・アームストロング、デヴィッド・ボウイ、ダニエル・ジョンストンらの曲を自分のスタイルで料理してきたウォードだが、本作でも達人の腕前は健在。前述の「レイヴ・オン」もさることながら、ルシンダ・ウィリアムズとのデュエットで聴かせるカントリー・クラシック「オー、ロンサム・ワン」は絶品だ。前作ではニーコ・ケース、前々作ではジェニー・ルイス(ライロ・カイリー)といったアメリカーナ/オルタナ・カントリー界の歌姫たちがそれぞれに魅力的な声をウォードのそれに寄り添わせてきたが、遂にルシンダ姉御までが登場とは! ドン・ギブソンやジョニー・キャッシュのヴァージョンに馴染みがなくても、ニール・ヤングが名作『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の中で取り上げているのはご存知の方も多いはずのこの曲。控えめでありながら厳かに鳴り響いて主張する音のアンサンブルをまとい、今にもむせび泣きしそうなルシンダとのデュエットは、切々とした中に官能的な匂いすら感じさせ、聴く者の心を包み込むようにして、奪う。

続くアップ・テンポのポップ・チューン「トゥ・セイヴ・ミー」に参加しているのはジェイソン・リトル(グランダディ)だ。かつてウォードがカイル・フィールドらと組んでいたロドリゲスのアルバムは、当時このジェイソンがプロデュースを手がけた上、ジェイソンのレーベルから発売されており、その頃からのつきあいが今なお続いていることになる。賑々しいのによれよれな、ウォード・ポップネスの真骨頂とも言うべき同曲。思わずにやけてしまう。

ウォードの父はカントリー・ミュージックの大ファンで、ウォード自身も幼い頃からカントリーに親しんでいたと言うが、伝承歌のごとき風合いの「ワン・ハンドレッド・ミリオン・イヤーズ」や、「フィッシャー・オブ・メン」、「シャングリーラ」といったカントリーをベースにした曲もまたウォードの腕の見せ所だ。過去に敬意を払いながら、今を生きる自分だからこそ出来ることを理解している彼は、いつかどこかで耳にしたような懐かしさをうっすらと感じさせながら、決して使い古しの使い回しにはなりえない歌、音、言葉を紡ぐ。これらが、彼が敬愛するワンダ・ジャクソンやハウリン・ウルフやエヴァリー・ブラザーズの歌のように、時を超えて受け継がれていくことを願わずにはいられない。それだけのクオリティを備えた歌だと思うから。

優れたシンガー・ソングライターであると同時に、ルーツ・ミュージックに斬新な解釈を施したジョン・フェイヒーからの影響も顕著なテクニックを擁するギタリストでもあるウォード。かく言う筆者も初めて彼のライヴを観た時には、鮮やかなフィンガー・ピッキングから生まれて来る音色のバラエティに驚き、感動したものだが、ここへ来てますます彼が奏でるギターが表現の可能性を高めていることも見逃せない。元来、音へのこだわりは強く、音数の少なさからシンプルに聞こえたとしても、完成までには綿密な試行錯誤が繰り返されていることの方が多いというウォードゆえ、自らが奏でるギターの活かし方にも妥協はない。「エピステモロジー」から「ブレイクス・ヴュー」への流れを聴いていると、イントロで飛び出して来た一音でその曲のムードを伝えてしまうことすら、彼にとっては難しいことではないと思える。さらには本作のラストに配された「アウトロ(AKA アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー)」。映画のエンドロールを飾るがごとくドラマチックに、余韻たっぷりに奏でられるインスト曲は、ウォードの大胆不敵な一面と繊細優美な一面の融合であると言ってもいいのではないだろうか。

聴く価値のある作品を作り続け、前述したジェイソン・リトル、ニーコ・ケース、ジェニー・ルイス、ズーイ・デシャネル、ルシンダ・ウィリアムズの他にも、ソロ転向時にサポートを惜しまなかったハウ・ゲルブ(ジャイアント・サンド)をはじめ、ブライト・アイズ、ホワイト・ストライプス、キャット・パワー、マイ・モーニング・ジャケット、ノラ・ジョーンズといった個性派達と信頼関係を築き、今や米国インディ界におけるウォードの立ち位置は確立された感がある。が、ここからの彼こそが、私には楽しみだ。正統と異端の狭間を縫って進むシンガー・ソングライターは、熟練期に入り音楽とどう向き合い、何を歌ってくれるのか。期待するな、というのは、到底無理な話である。

4AD

  sound video
01.   フォー・ビギナーズ(AKA シオン山) 
02.   ネヴァー・ハド・エニバディ・ライク・ユー(*Featuring Zooey Deschanel) 
03.   ジェイルバード 
04.   ホールド・タイム 
05.   レイヴ・オン(*Featuring Zooey Deschanel) 
06.   トゥー・セーブ・ミー(** Featuring Jason Lytle) 
07.   ワン・ハンドレッド・ミリオン・イヤーズ 
08.   スターズ・オブ・レオ 
09.   フィッシャー・オブ・メン 
10.   オー、ロンリネス・ミー*** Featuring Lucinda Williams 
11.   エピステモロジー 
12.   ブレイクス・ビュー 
13.   シャングリラ 
14.   アウトロ(AKA アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー)