

心安らかな気持ちで聴くことができる反面、どうにもざわざわと心乱される時もある。シンプルであるがゆえ、込められた感情や状況の複雑さが強調される音楽。マウンテン・ゴーツことジョン・ダーニエルが生み出すのは、そういう類の音楽だ。近年、にわかに注目を浴びるフォーキー・シーンの中でもオーソドックスな方法論で紡がれる歌が故シド・バレットを引き合いに出して語られがちなのは、どこか浮世離れした佇まいのせいだろうか。ダーニエルは、その短くないミュージック・キャリアを、人知れず積み上げてきた。もちろん、実際には彼の音楽を愛する人は存在するし、マウンテン・ゴーツの名前をいつかどこかで耳にした記憶を残している人もいるはずだ。けれど私は彼に「人知れず」というイメージを抱いてしまう。それは多分に、彼の音楽が彼自身に向けられたものであったからではないか、と思う。先に「浮世離れした佇まい」と表現したが、でありながら、彼の歌は時に痛々しいまでにリアルである。前作で家族問題を巡る自らのトラウマと対峙したダーニエルには、多くの同情や共感が寄せられたというが、彼自身はそこからまた1歩外に向けて踏み出した。最新作『ゲット・ロンリー』を聴いていると、そう思わずにはいられない。アコースティック・ギターを要にしたサウンドは美しく、控えめで、はかなげで、ダーニエルの歌声もまたどこかに危うさをたたえている。けれども、ここにはかつてないほどの力強いストロークがあれば、ダーニエルの楽観的な表情も見え隠れする。何も考えなければ幸せに過ごせるかもしれないけれど、ひとたび何かを考えてしまったら楽観的に生きることが困難になるこの時代の空気を、ダーニエルは敏感に感じ取りシンプルかつエモーショナルな音楽に、静かに託す。(赤尾美香)

